【フォーカスレポート】本番を目前にした“第0回公演” 挑戦のリアル ーー『1PPO~歌と芝居の贈り物~』

舞台に漂う空気は、すでに本番そのものだった。8月21日、東京・狛江エコルマホールで、『1PPO~歌と芝居の贈り物~』の公開ゲネプロが行われ、三山ひろしを筆頭に出演者たちが本番さながらの迫真の演技を披露した。
「この挑戦は本当に、“1PPO(一歩)”。タイトルの“1PPO”は、おのおのの志気を高める一歩であり、おのおのが自分の歌を前進させる表現力の一歩なんだと考えながら、この公演に取り組んでまいりました」(三山)

三山ひろし

写真左よりけん玉ちばちゃん、三山ひろし、辰巳ゆうと、木村徹二、彩青、津吹みゆ、藤井香愛、脚本・演出を務めた大森博氏、山口良一
“未来を担う演歌歌手が挑む、新たな1歩!”を合言葉に、8月21日~22日の2日間(3公演)行われた『1PPO~歌と芝居の贈り物~』は、三山ひろしが演歌・歌謡界を若手歌手と一緒に盛り上げていきたいとの強い思いから、2年前から構想を描いていたイベントだ。三山の呼びかけに賛同した津吹みゆ、辰巳ゆうと、藤井香愛、彩青、木村徹二、けん玉ちばちゃん、そしてベテラン俳優の山口良一が集結。脚本・演出を大森博氏が手がけた芝居『道~こころざし』と、楽器演奏や踊りを交えた歌謡ショーで構成された、今までにないステージにチャレンジした。
『道~こころざし』は、過疎化が進み空き家問題などを抱える地方都市のシェアハウス「むくろじの里」を舞台に、そこに集う若者たちの過去と現在が交錯する物語。互いにいままで知らなかった思いを話し合い、志を胸にそれぞれが未来に向けての“一歩”を踏み出していく姿を描く。
演歌や歌謡曲の世界で磨かれてきた歌手たちが、セリフを通して葛藤や情熱を語り合うシーン。その声にはふだんステージで聴き慣れた歌声とは違う息遣いがあり、“芝居に挑む”という緊張感がみなぎっている。観客のいない客席に、拍手や華やぎは感じられなくても、本番を目前に控えた静かな熱が、舞台に立つ一人ひとりの眼差しに宿っていた。
津吹みゆは、福島訛りのインフルエンサー・内田優子役。彼女の内に秘められた“もう一つの顔”を、経験豊富な表現力によって鮮やかに浮かび上がらせた。津吹は、家族としゃべっているようなつもりで訛り過ぎてしまい、大森監督から“何を言っているかわからない”と注意を受けたこともあったと会見で明かし、報道陣の笑いを誘った。
「三山さんの舞台にかける思いや熱量、舞台の作り方を、間近で勉強させていただくことができて、すごくうれしかったです。私は舞台鑑賞が大好きで、大森さんと山口さんの出演される舞台も拝見させていただいていました。今回こうしてご一緒させていただける機会をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです」
辰巳ゆうとは、テレビ番組のプロデューサーとして、シェアハウスの取材に訪れる町田真司役。彼が投げかけたひと言がきっかけとなって、シェアハウスに住む一人ひとりの心に変化をもたらしていく。辰巳は、ふだんとはまったく違うキャラクターになりきったことで、誰も知らない新たな一面を見せた。
「僕はお稽古に参加できる日数が少なかったんですけれども、周りの皆さんにたくさんサポートしていただきながら、初日を迎えることができました。こうして歌手の皆さんと一緒にお芝居をすることは、本当にレアな機会です。今日大きな一歩を踏み出して、新たな世界が見えてくるんじゃないかと思います」
セクシーなドレスで観客を魅了する藤井香愛が、この舞台では一転。裕福な家庭に生まれながらも心に孤独を抱える女性・冴木翔という、あぐらをかき片足を立てて座る、中性的で奔放な女性像に挑戦した。
「慣れないことがたくさんあったので、稽古期間中は知恵熱が出そうなぐらい頭がいっぱいでした。三山さんから“お芝居をすることで歌の幅が広がったり、必ず歌に繋がることがあるから”と言っていただきました。私自身が今年は新たな決断をしたので、脚本の内容に自分と重なる部分がたくさんあります」
彩青は、三味線職人になる夢を持つ“りゅうちゃん”こと鈴木隆一を演じた。寅さん好きで人情味あふれるところも自身と重なる役で、自然体な彩青の存在が新鮮な空気を放った。
「こんな素晴らしい舞台に挑戦させていただけるということに、感謝申し上げる次第でございます。今をどう過ごしていくか、一日一日をどう成長していくかということの大切さを、お芝居で勉強させていただきました。この一歩大切に、またさらに大きな一歩を踏み出していけるよう、頑張っていきたいですね」
暗い過去を持つ元料理人・草野謙二を演じる木村徹二は、演技に挑戦するのが初めて。まったく何もわからない状態からスタートして、難しい役どころを見事に演じきった。
「日常会話で相づちを打つことさえ、芝居で意図的にやるのはこんなにも難しいということを実感させられました。僕にとっては初めての扉をひとつ開けて…本当に開けていい扉なのかどうか、ドキドキ不安を感じながら演じさせていただきました。僕の一挙手一投足が、お客様に新鮮に映るかなと思います」
三山のけん玉の師匠でもあるけん玉ちばちゃんは、けん玉でセリフを表現するという卓越した名人芸で、舞台に彩りを添えた。またシェアハウスの家主役を務めた山口は、ベテラン俳優らしい存在感で若手演歌歌手たちを統率した。
そして三山は、自らの判断によって最愛の娘を失うという深い傷を胸に抱えながらも、その痛みを隠すように笑顔を絶やさず人々とシェアハウスで暮らすトラックドライバー・小寺弘之を、切なくも温かく演じきった。
「監督の大森さんの一つひとつの指導が、そのまま歌の世界の表現力、理解力に直結することがとても多かったです。真剣にそれを受け止めて、自分の歌や明日の芝居に反映させていくことが楽しかったですね。お芝居と歌という組み合わせが、歌のスキルアップにはとてもいいなとずっと思っておりました。歌に深みが増してくることは、これから先の一歩、そして二歩に絶対に繋がっているはずです。ぜひそれを皆さんとに共有させていただきまして、演歌界のスキルアップができればいいですね。今日やっとその一歩目が生み出せるのかなと思います」(三山)
年齢もキャリアもバラバラ、レコード会社も所属事務所も違う歌手が一致団結した舞台『1PPO~歌と芝居の贈り物~』。ゲネプロとはいえ、彼らが自分たちの挑戦に向き合う時間はまさに未来への一歩であり、その舞台の上には確かな足音が響いていた。
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