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【Colorful Interview】蘭華 ニューアルバム『遺書』〜苦しみの中から生まれた作品たち〜

2015年のデビュー以来、美しい言葉と繊細なメロディーが胸を揺さぶるメッセージソングを世に送り続けてきたシンガーソングライター・蘭華が、12月13日に5年ぶりとなるニューアルバム『遺書』をリリースした。
思わずハッとするタイトルや収録された作品に込められたテーマは、たしかに重く、いまを生きる私たちが目を背けることはできない現実を否応なしに突きつける。蘭華自身がさまざまな体験をする中で、苦しみ疲れ果てた先に生み出した愛すべき作品たち。あなたにはどう届くだろうか。

 

実際に受けた傷。いまそれを表現できるのは私しかいない

蘭華さんにとって3年ぶりの新譜、5年ぶりのニューアルバムとなりますね。まず、どのような経緯で今回のアルバム制作がスタートしたのですか?

蘭華 今年に入ったころに、マネージャーから”3枚目のアルバムを作りましょう”と提案がありました。実は、当時アルバムを作る心境ではなくて、一度は断ったんです。私はシンガーソングライターなので、そのときそのときの自分の環境や精神状態が、作品に如実に表れるんですよね。これまでは、文学作品などをモチーフに曲を書くことが多かったのですが、”どうしても出してほしい”と言われて、”いま、何を伝えたいか?”と考えたときに、この『遺書』のタイトルやテーマが浮かんだんです。

何かきっかけになる出来事があったのですか?

蘭華 このSNS時代、いろいろなニュースが出ています。SNSの誹謗中傷や嫌がらせ、パワハラやいじめによって若い世代の方だけでなく思い悩んでいる人がたくさんいて、最後には一番選んでほしくない自死というものを選んでしまう方も多くいるという現状。ずっと危惧していて、私の中にそれをどうにか変えられないかなという思いがあり、いろいろ調べたりしていました。この数年、私の大切な人たちがコロナやさまざまなことで命を失くしました。その中でも、いちばん大きかったのは親友の自死です。2021年1月に、SNSやネット上の嫌がらせで悩んでいた親友が命を絶ってしまいました。そのころ、私はシングルを出したタイミングで忙しいこともあり、彼女とちゃんと向き合うことができず…。その後、四十九日に彼女の故郷に行ったときに、ご家族から手紙をいただいたんです。

それは…。

蘭華 彼女の遺書でした。人生で遺書というものをもらったのは初めてでした。とてもシンプルな彼女の手紙を読んで、ただ一緒に過ごすということがとてもかけがえのない時間だったんだなと。どうにかして彼女の命を救う方法があったのではないかと、とても悔やみました。そして、実は昨年末から私もある女性から誹謗中傷を受けていたんです。

蘭華さんも親友と同じような体験をされたのですね?

蘭華 はい。執拗な誹謗中傷によってさまざまなものを失いました。最初は怖くて不安で…。自分は生命力が強いと思っていましたが、あまりにやられ続けて自死を選んでしまう人の気持ちがわからなくもないと思うこともありました。でも、誹謗中傷を実際に受けたことで、書けることがあるだろうと。それを昇華させないと、”なんだったんだ、私のこの一年間は”という思いもありました。この経験や体験、全然自慢できないつらい苦しい日々でしたが、それを発信してさらけ出すことで見せ物になるかもしれないけれど、傍観者として見ている人やもしかしたら加害者になっている人、救えたかもしれない人たちにも気づいてほしい、知ってほしい。この苦しみ、つらさは、いまの私にしか表現できない。そう思って向き合うことにしました。

 

アーティストの宿命

アルバムタイトルと同じく「誹謗中傷をやめないあなたへ」など、収録されている作品のタイトルや歌詞がとてもストレートで衝撃的でした。

蘭華 そうですね。ストレートすぎるくらいストレートなタイトルや歌詞は、スタッフサイドでも賛否両論がありました。私はいままで、日本語の美しさや聴いた人が癒されホッとするような音楽、作品づくりにこだわってきました。だけど、誹謗中傷や嫌がらせ、いじめなどに立ち向かう歌となると、やはりちょっときつい「おまえ」や「アイツ」というような強い言葉が多くなって、闘うような言葉を使わなければいけない。正義をふりかざすつもりではないけれど、この作品を作っているときは、いじめやひきこもり、鬱、パワハラなど社会に蔓延る現代の闇、”こんなリアルがありますよ”というのをなんとか表現したかったんです。「誹謗中傷をやめないあなたへ」は、私が一番思いを込めた曲です。

「誹謗中傷をやめないあなたへ」をアレンジしてくださった森俊之さんのスタジオにて

アルバムの最後の曲「遺書」についてはいかがですか?

蘭華 実は数年前から、遺書というテーマで曲を書きたいという思いはあったんですね。でもそれは、自分が残すという意味の遺書。生きた証、残していく者への自分の生きざまやメッセージ、愛情というテーマで書こうと思っていました。実際に自分が遺書をもらうなんてことがあるとは思いもしませんでした。また会えると信じて疑わなかった親友が他界し、毎晩、朝方まで亡き親友のことを想い涙する日々。もう声を聞くことも話すこともできない。あの時、約束を果たせていたら?と、後悔ばかりが押し寄せてきて…。でも、どんなに願っても時は戻ってきてはくれない。救ってあげられなかったという想い、親友へ届けられなかったメッセージを曲という手紙にして綴りました。遺された者の後悔と苦しみを表現したこの曲を聴いて、生きることをやめようとしている人が踏み止まってくれたらいいなという思いも込めています。あなたがいなくなったら、どれだけ悲しむ人がいるのかということを知ってもらえたら。

「遺書」をアレンジしてくださった船山基紀さんのスタジオにて

全ての作品の節々に、蘭華さんのメッセージが凝縮されているんですね。

蘭華 「あの娘は今日も」という曲は、夢を追い求めているけれど自分の思うようにならない若者の焦燥感を描いています。「僕は生きてる」は、誰もが毎日楽しいわけじゃない。生きるために仕事しなきゃいけないし、たとえば自分の大切なものを失ったとき、悲しくても”仕事辞める!”なんて言えませんよね。 悲しみや虚しさ、苦しさ、日々の閉塞感などを持っている人たちも、それでも生きていかなくてはいけない。そんな人たちにも聴いてほしいなと思い、「生きていく」というメッセージソングを作ってみました。 私も2015年にメジャーデビューして、それまでが長かったのでうれしくて。2018年くらいまでは良かったけれど、あるときから自分の思っているほうに進めなくなったり…。そういうタームもあると思うんです、人生の中で。でも、幸せって何だろう?と思うことがあって、それはとくにこの一年、誹謗中傷を受けてからは活動もできなくなって、それでも苦しみながら詞を書いて…。これは、アーティストだから宿命だと思っているんですけれど、自分の傷ついた精神、魂と向き合って吐き出さなきゃいけない。今回私が書いた曲は、本当に全部重いです。だいぶどん底まで落ちたので、年も変わりますしこれから楽しいこと、きっといいことがあると思って生きていきたいと思います。

 

一見ネガティブ、けれど根底にあるテーマは「生きる」

個人的には「米花町ブルース」がとても気になりまして…。米花町はあの人気アニメに登場する街ですよね?

蘭華 そうです! 『名探偵コナン』のスピンオフ作品『犯人の犯沢さん』の主題歌のコンペの話があり、どうも主人公の犯沢さんは島根県の出雲出身らしく、コンペの制作側からきた条件に島根弁と出雲弁を入れること、があったんです。一番の歌詞は、そのために犯沢さんを主人公にして書いたもの。残念ながら採用にならなくて、他の歌い手さんに…と考えていたんですが、今回アルバムの収録曲をどうしようと思ったときに、なかなか曲が書けなかったこともありますが、テーマとしては警察や犯罪、目に見えない犯人ということで通じるものがあるな、と。

米花町は犯罪都市とされていますしぴったりですね。

蘭華 はい。これまでのアルバムでは、一曲だけふだん私が書いている作風とは違う、ちょっとだけノリのいい明るい曲を入れるようにしているんですけれど、この曲が今回はその存在なんですね。ラテンやサルサ。それで激しい歌詞を少しでも受け入れやすく中和して、面白おかしくポップな感じにしました。

「遺書」のイメージとは反対に、全体的にポップな曲が多いのにはそういった意図もあるのですね。

蘭華 今回のテーマが重いので、それだけでセンセーショナルで拒絶してしまう人もいるかなと思ったんですね。でも、そこに込めた思いを聴いてほしいからこそ、聴きやすいサウンド作り、音とメロディーというところから少しでも入りやすくなるといいなと思って、アレンジャーさん選びやアレンジもディスカッションを重ねて作りました。

遺影を想起させるジャケット写真も衝撃的でした。

蘭華 遺書というとイコール死。亡くなる、となると遺影。一見ネガティブなんですけれど、根底にあるテーマは「生きてほしい」なんです。つらい思いをして命を絶つ人を少しでも減らしたい。

死を悼むというよりも、生に対しての前向きなメッセージなんですね。

蘭華 タイトルが「遺書」なので遺影をイメージしましたけれど、カラフルでハッピーな明るい色、たくさんの花をまわりにおくことで、生命力や「生きる」という裏テーマを表現しました。いままでは、どちらかというと自分は左の方が少しでも綺麗に見えると思って、左向きの顔の写真を選んでいたんですよ。それを、今回はさらけ出すぞという思いで正面で臨みました。

ありがとうございました。最後に、読者やファンの皆さんへメッセージをお願いします。

蘭華 3年ぶりの新譜、5年ぶりのニューアルバムとなります。今回の作品はこれまでの私のカラーとは違う、さまざまなバリエーションのある音楽を詰め込んでみました。いままでで一番苦しみ、その中から生まれた曲たち。一貫して伝えたいテーマは、現代社会で問題になっている誹謗中傷やいじめやパワハラで悩んでいる人、自死、鬱というヘビーなものですが、裏テーマは生きる、命の大切さです。悩んだり迷っている人たちを、ひとりでも救いたいという思いで書いた曲たちです。そしてそれを聴いてくれる人たちに、こういうことで苦しんだり傷ついている人たちがたくさんいるということを知ってほしいという思いもあって書きました。ぜひ、たくさんの皆さんに聴いていただけたらうれしいです。

【PROFILE】蘭華(らんか) 大分県出身。出雲観光大使。2015年に人気作家である吉本ばなな原作の映画『海のふた』の主題歌を収録した両A面シングル「ねがいうた/はじまり色」でメジャーデビュー。以降、透明感あふれる歌声と唯一無二な音楽の世界が注目のシンガーソングライター。現在、さまざまなジャンルのアーティストへの楽曲提供を行い、作詞・作曲家としても活動している。

 

 

NEW RELEASE!!

2023年12月13日発売
蘭華『遺書』

【収録曲】
M1 僕は生きてる
M2 あの娘は今日も
M3 With you
M4 ヒーローになりたい
M5 誹謗中傷をやめないあなたへ
M6 米花町ブルース
M7 扉を開けるなら今
M8 愛しき我が故郷
M9 愛を耕す人
M10 遺書
徳間ジャパンコミュニケーションズ TKCA-75159 2,500円(税込)

 

INFORMATION

新曲キャンペーン

◾️ 12月28日(木)15時〜 東京・赤羽美声堂
◾️ 2024年1月14日(日)15時30分〜 埼玉・スーパーバリュー上尾愛宕店
◾️2024年1月19日(金)13時30分〜 東京・ タワーレコード八王子店
◾️ 2024年2月4日(日)12時〜 埼玉・イオン南越谷店

 

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