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Z世代も虜にするソロボーカルの神髄。ちあきなおみ『残映』の聴きどころは

昭和歌謡がさらなる盛り上がりを見せている。テレビでは『マツコの知らない世界』(TBS系)や『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』(テレビ朝日系)などの人気番組が昭和の歌謡曲にスポットを当てた企画をたびたび放送。雑誌では今年に入って『ブルータス』(マガジンハウス)と『ギター・マガジン』(リットーミュージック)が大々的に歌謡曲を特集し、それぞれ大きな話題を呼んだ。

動画サイトやサブスク(定額制音楽配信サービス)の普及によって、自分が興味を持った音楽に容易にアクセスできる時代になったからだろう。人間の普遍的な心情をテーマに、詞と曲が一体となって情景を描き出す昭和歌謡の魅力は“Z世代”と呼ばれる10代から20代前半の若者たちにも浸透。SNSを通じて日々共有・拡散され、楽曲のみならず歌い手の歌唱力や表現力への注目も高まっている。NHKが地上波やBSで山口百恵、西城秀樹、中森明菜らの「伝説のコンサート」を放送したときは、その都度Twitterで歌手名がトレンド入り。程なくして再放送が決定したのは、彼らのパフォーマンスが往時を知らない若者をも魅了した証しと言えよう。

そんな現象を牽引している歌手がいる。ちあきなおみだ。1969年にデビューした彼女は「喝采」(1972年)で日本レコード大賞を受賞。歌謡曲、演歌、ニューミュージックから、ジャズ、シャンソン、ファドまで、ジャンルを問わず独自の世界を創り上げる歌唱力で不動の地位を確立するが、1992年に活動を休止した。それから30年。一度も復帰することなく現在に至っているが、その存在感は薄れるどころか、むしろ高まっている。

【PROFILE】ちあきなおみ 1947年9月17日、東京都板橋区出身。1969年「雨に濡れた慕情」で歌手としてデビュー。1972年には「喝采」が一世を風靡し、レコード大賞を受賞。その歌唱力の高さには定評があり、長年にわたって『NHK 紅白歌合戦』への出場を果たしている。カムバックした1980年以降は、1983年『居酒屋兆治』、84年には『瀬戸内少年野球団』などの映画に出演し、女優としても活躍した。また、『タンスにゴン』のCMでも話題に。1992年、夫と死別。その後、芸能活動を停止している。

たとえばテレビ。ちあきの特番はNHK-BS2(当時)の『歌伝説 ちあきなおみの世界』(2005年)を皮切りに、BSテレ東やBS-TBSで複数制作されているが、どの番組も再放送を重ねている。視聴者からのアンコールが多いからだ。一方、前出の『サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん』が昨年8月に放送した「昭和の歌姫ベスト20」では、現役組が多数を占めるなか堂々の9位。選者は平均年齢13歳の少年少女なので、世代を超えて支持されていることが分かる。

CDの売り上げも破格だ。本人不在のなかリリースされてきた復刻盤やベスト盤、BOXセットはいずれも好セールスを記録。2019年4月に発売されたコンセプトアルバム『微吟(びぎん)』はオリコンで36年ぶりのトップ40入りを果たし、日本レコード大賞の企画賞を受賞、現在もアルバムチャートにランキングされるロングセラーとなっている。

その『微吟』から3年半。ちあきにとって令和初となる待望のコンセプトアルバム『残映』が10月19日にリリースされる。今作は「日没後も照り映えて残る西空の灯り」をイメージに、男女の恋愛模様や未練心を描き出した17曲を厳選。シングルA面やアルバム表題曲としてお馴染みの「夜へ急ぐ人」(シングルとは別アレンジ)「伝わりますか」「色は匂へど」「紅い花」といったオリジナル曲に加え、「東京砂漠」(オリジナル:内山田洋とクールファイブ)、「夜霧よ今夜も有難う」(同:石原裕次郎)、「玄海ブルース」(同:田端義夫)など、カバー曲も多数収録されており、彼女の比類なきボーカルを堪能できる内容となっている。

ちあきと半世紀以上の親交がある音楽プロデューサーの東元晃氏は「聴き手の感性に訴えかける曲で構成した」とコメント。詩情あふれるシャンソン(「アコーディオン弾き」「ラ・ボエーム」)やファド(「秘恋」)のカバー曲のほか、隠れた名曲が脚光を浴びてほしいとの想いで「祭りの花を買いに行く」(作詞・作曲/友川かずき)、「部屋」(作詞・作曲/小椋佳)などをセレクトしたという。

その言葉どおり、人生の哀歓を余すところなく表現するちあきの歌声は、秋が深まり、感受性が豊かになるこの季節には特に沁みる。なかでも「アコーディオン弾き」は圧巻で、さながら“ちあきなおみ劇場”。情景描写とヒロインの心理描写が、声色や唱法によって巧みに演じ分けられるさまは、一瞬たりとも聴き逃せないスリルがある。サブスクに慣れた昨今のリスナーはイントロや間奏を飛ばしてサビだけを聴く傾向があるというが、1曲ごとに極上のドラマが展開するこのアルバムを聴けば、じっくり歌を聴く歓びを味わうことができるに違いない。

多彩な楽曲で構成された本作は全曲オリジナルマスターからの最新リマスタリング。曲ごとのダイナミクスを尊重し、歌の表現力に重点を置いた処理が施されているという。初回生産分は前作『微吟』を姉妹盤のように収納できるスリーブケースが付くというから、この秋は2作をたっぷり鑑賞して、稀代の歌姫の残映に浸りたい。

(文/濱口英樹)

 

 

NEW RELEASE!!

2022年10月19日発売
ちあきなおみ『残映』

【収録曲】
M1 伝わりますか 作詞・作曲/飛鳥涼 編曲/瀬尾一三
M2 あなたのための微笑み 作詞・作曲/小椋 佳 編曲/服部隆之
M3 色は匂へど 作詞/伊集院静 作曲/筒美京平 編曲/新川博
M4 ひとりしずか 作詞/星野哲郎 作曲/船村 徹 編曲/前田俊明
M5 東京砂漠 作詞/吉田 旺 作曲/内山田洋 編曲/奥慶一
M6 夜霧よ今夜も有難う 作詞・作曲/浜口庫之助 編曲/倉田信雄
M7 赤と黒のブルース 作詞/宮川哲夫 作曲/吉田正 編曲/倉田信雄
M8 アコーディオン弾き 作詞・作曲/ミッシェル・エメール 編曲/服部隆之
M9 ラ・ボエーム 作詞/ジャック・プラント 作曲/シャルル・アズナブール 編曲/服部隆之
M10 秘恋 ポルトガル民謡 日本語詞/吉田旺 編曲/竜崎孝路
M11 夜へ急ぐ人 作詞・作曲友川かずき 編曲/内堀まさる
M12 帰れないんだよ 作詞/星野哲郎 作曲/臼井孝次 編曲/蔦将包
M13 玄海ブルース 作詞/大高ひさを 作曲/長津義司 編曲/蔦将包
M14 祭りの花を買いに行く 作詞・作曲/友川かずき 編曲/倉田信雄
M15 百花繚乱 作詞/水谷啓二 作・編曲/倉田信雄
M16 部屋 作詞・作曲/小椋 佳 編曲/倉田信雄
M17 紅い花 作詞/松原史明 作曲/杉本眞人 編曲/倉田信雄
※全17曲・最新リマスタリング
テイチクエンタテインメント TECE-3688 3,080円(税込)

 

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