【Colorful Interview】「僕らはこんなご時世だからこそ誕生したユニット」神仏兄弟 Vol.1
2021年、日本中、いや世界中が新型コロナウイルスの感染拡大による未曾有の事態に陥っていた中、みんなが笑顔で健やかな日々を送れるようにと二人の男がその収束を願い、祈り、手を取り合った。その名は「神仏兄弟」。神様と人間の取り持ち役として実際に神社で神主として活動している壮紫(そうし)と、浄土真宗の僧侶であり東京・四谷の人気店「坊主バー」を経営する善念(ぜんねん)による音楽ユニットだ。二人はどのような道を歩いてきたのか。結成のきっかけは。そして、音楽を通して伝えていきたいこととは。その思いを2週にわたりスペシャルインタビューでお届けする。
「人の心の拠りどころになれれば、そこがお寺なんです」(善念)
まずはお二人それぞれについておうかがいします。”兄上”である善念さんは、本当のお坊さんとしても活動されているとのことですが、仏教を学ばれることになったきっかけは?
善念 私はボクシングのスポーツ推薦で駒沢大学に入学したのですが、目を怪我しまして選手としてはこれ以上できないということになり、転部して仏教を学ぶようになりました。怪我したタイミングがちょうど仏教に目覚めた頃だったので、これはそっちにいけということかなと思いましたね。
ボクシングを通して仏教に目覚めたようなことも?
善念 ありますね。格闘技の世界は、自分の鍛錬をしていく過程で精神的なところに行き着きます。精神的に強くなりたいと思って、その頃よく瞑想や座禅をやっていたんです。怪我とかした時は12時間ずっと瞑想し続けるとか、欲望を限りなく抑えていくことを徹底的にやっていたんですけれど、その中でいろいろな発見があって自分自身を見つめ直しました。そこから色々な勉強をして、愛媛にいらした坂村真民さんという高名な仏教詩人の方をはじめ色々な人に出会いました。そして仏教を本格的に学びたいと思って、大学を卒業して築地本願寺にあるお坊さんになるための学校に行って、そこを卒業と同時にこの「坊主バー」を経営するようになりました。
お坊さんとしての活動はされずに「坊主バー」の店主になられたんですか?
善念 そうです。お坊さんは「得度」して資格を得ることができたら、その後どういう活動をするかは個々にかかっています。僕は独自路線に進みました。ちょうどここを経営してくれという話が来たのでやってみようかなと。普通の会社に勤めてみようかなと思ったこともあったんですけどね。でもやっぱり……と、流れに身を任せて生きてきました。考え方によっては、このお店も新たなお寺というか。形ではなくて、人の心の拠りどころになれればそこがお寺になります。本来の意味は拠りどころという意味で、ちゃんとお経をあげるお坊さんがいて教えを説いていれば、そこがお寺なんです。
本物のお坊さんがバーを経営している、ということで風当たりなどは……。
善念 最初は強かったですよ。テレビに出たり取材を受けると必ずと言っていいほどものすごい批判を受けました。でも、こうして何十年も真摯にやってくるとお寺がこういった活動を認めてくれて、どんどんと全国展開されていきました。実は大阪で1992年に開店した「坊主バー」がパイオニアなんですよ。
辞めようと思ったことはなかったんですか?
善念 辞めたかったですよ、本当に大変でしたから(笑)。ただ僕は生活をすべてここで賄っていたので、当時は逃げる場所もなかったんです。かといってこのままお寺に入りたくないとも思っていましたから、頑なにそれに逆らって生きようと。どうにかして自分は自分の道を探して生きてやろうと思っていました。わかってくれる人にわかってもらえればいい。「縁なき衆生度し難し」。それが仏教の教えです。縁がない人は切り捨てるんです、お釈迦様は。
そうなんですね。切り捨てる……。
善念 全然ネガティブなことではないんですよ。その人やその人の考えを無理やり変えようとするのはこちらのエゴ。残念ながら離れていく人もいるでしょうけどそれもひとつで、私とは縁がなかったけれどその人にはまた別の良い縁がある、という考え方なんです。
仏教の一番の真理というのはどういうところですか。
善念 物事の本質をありのままに見ているところですかね。「綺麗ごとじゃない。この世は苦しみだ」ということをお釈迦様は発見したわけです。この世に希望があるとか、この世は素晴らしいとかそういうことは説かない。どこまでも苦しみだと、たとえいい人と出会っても苦しみがある。どんなに添い遂げたとしても、結局は別れというものがついてきますよね。そこをわかった上で生きていくということがすごく大切なこと。そこを受け止められたら本当の意味の前向きな生き方ができるし、ちゃんと諦観して生きていける。こうしたことを私たちはこれからもっと伝えていかなきゃと思っています。
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